正月休み中に、昨年マカオで公演した「#マクベス」と「走れメロス」の劇評やインタビューが、翻訳されてきましたー。
(泉さん、いつも翻訳、ありがとうございますー)
少しずつアップしていきますね。
まずは5月のマカオ青少年演劇祭で上演した「#マクベス」についてのインタビュー記事。
現地のジャーナリストのスザンナさん(蘇蘇さん)の記事です。
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マカオ教育・青年局、観光局およびプロ劇団の戯劇農荘の共催によるマカオ国際青年演劇フェスティバルは拍手と歓呼のうちに成功裏に閉幕した。主催団体による招聘のおかげで、蘇蘇(スースー)もあちこち行って回ることなしに色んな場所の舞台芸術を見ることができた。公演をすべて観るほどの時間はなかったが、1週間の上演期間中に各地からのアーティストたちと交流できたのは願ってもないことだった。蘇蘇なりに全体を振り返りながら、観た演目の感想やいくつかの劇団との交流について書いてみたい。
マカオ特区政府の肝いりによる第1回大型国際総合文化芸術フェスティバル「芸文薈澳(芸術と文化がマカオに集(つど)う)」のねらいは、マカオを国際的な芸術交流の場にしていくこと。その一環の国際青年演劇フェスティバル2019は「各地域を一体化させ、魅力ある芸術を創る」ことをテーマに、2019年8月28日から9月8日までマカオで行われた。音楽劇、舞踏劇、無言劇、人形劇、即興劇、幼児感性劇からシェークスピアの古典劇「夏の夜の夢」まで多元的な演目で、マカオの若い世代や観光客に幅広い演劇芸術に触れてもらう機会となった。演劇を軸にした芸術活動の推進により友好を深め、五感に伝わる体験を通じて演劇の楽しみを知ってもらおうというもの。演劇文化の推進にあたっては、広東・広西のしっかりした文化基盤に拠って立ち、珠江デルタ一帯に新たな文化的側面をもたらし、マカオの文化芸術のソフトパワーを発揮した。演劇フェスティバルは、「中華文化を主軸として多元的な文化が共存する」文化交流と協力のユニークな場としてのマカオの強みを示すこととなった。
今回の演劇フェスティバル2019に参加した面々は、カーボベルデ、韓国、日本、マレーシア、ポルトガル、シンガポール、ウクライナ、上海、広州、台湾、香港、マカオなど多くの国と地域の出身で、全部で26チーム、総勢300名余りと、みごとな陣容だった。
蘇蘇(スースー)がまずご紹介したい印象深い演目は、日本のTheatre Momentsによる「マクベス」。この劇団の公演は以前にも観たことがあり、何が特別かといえば公演ごとに毎回、生活必需品のなかから選んだアイテムを寓意の小道具に仕立てるところ。観客がそこから生きることの本質を見いだしてもらえることをねらっている。彼らが今回選んだのは、わたしたちが日常に使うポリ袋。情報通信が発達した今日、わたしたちはさまざまなネットワークで無限の情報を得られるし、瞬時に各地の情報をつかむこともできる。しかしポジティブな情報もある一方で、さらに多くのネガティブな情報やフェイクニュースもある。このような情報・ニュースにどう向き合うべきなのか。
終演後に周りの観客に耳を傾けると、劇団への評価はとても良く、マカオでまた上演してくれるなら必ず観に来たいという人もいた。蘇蘇も同感で、それに加えて幸いにもこの日本の劇団と対談する機会を得た。「マクベス」に対するみんなの意見を代弁して聞いてみた。
蘇蘇(スースー): 今回マカオに来て公演するにあたって、この重たい古典劇を持ってきたのはなぜですか。
Theatre Moments: まさに おっしゃる通り古典劇を選んだのは、現代的な演出でコントラストを浮かび上がらせ、現代的な演出と古典的な世界観の違いがぶつかり合って観客の想像力を刺激することができると考えたからです。想像力というのは、現実がいっぽうにありフィクションやファンタジーがもういっぽうにあるとして、その間の絶妙な空間に誕生するものだと思うわけです。実のところわたしたちは古典作品以外のものも演じてきたわけですが、現代作品であっても少し手を加えてSF的要素を入れたりします。たとえば以前プロデュースしたドイツの劇作家ミヒャエル・エンデ原作の「モモ」では、寓話的な要素を加えて現実と虚構を交差させ、観客はこの交差の接点を通して作品のメッセージを受け取り作品に入り込んでいく。これが、わたしたちの劇団の特色のひとつです。
蘇蘇: 前回わたしが観た皆さんの演目は「パニック」でした。大好きな作品です。四肢を駆使した動きによる表現が多用されていました。今回の公演にはどんなメッセージを込めていますか。
Theatre Moments: 「パニック」も観ていただいたんですね。わたしたちの四肢を駆使した演技は日本のなかでもたいへん特別で、肉体演劇をやる数少ない劇団と言ってよいでしょう。当劇団は、演技の細やかさに役者たちの四肢の動きがマッチして、日本ならではのスタイルでしょう。そんな言い方をしたら、うぬぼれに聞こえるかもしれませんが、それだけの自信はあります。
「マクベス」にこめたメッセージについてですが、きっと観客それぞれに異なる受けとめ方をされたのではないでしょうか。とはいえ、どうしても何か語れと言われればそれは「人類が大量のデータにあふれてしまったとき、かえって何かだいじなものを失っているのではないか」ということですね。
現代社会はたいへんに効率重視で、効率を上げるには情報が非常に重要になってくる。しかし多様化した世界ではひとりひとりの価値観はみな異なっているわけで、情報の氾濫により世界はますます混乱していく。「マクベス」という一演劇を通じてわたしたちは「現代社会において人類は何を信じ、どう判断し、いかにして生き続けていくべきなのか」、そんなメッセージを発信してみたいのです。
蘇蘇: マカオは何度目になりますか。マカオの印象はいかがですか。
Theatre Moments: 2013年以来、マカオには6つの作品を携えてきました。そのうち3回はマカオに来ての制作だったので、あまり外を出歩く時間もなかったです。マカオの印象ということで言えば、安全だし人々は親切だし、住みやすい場所ですね。でも広東語を学ぶのはひどく難しくて、いまだにダメです。マカオには感謝しています。というのも、わたしたちの劇団は当時日本では特段高い評価を得ておらず、はじめてわたしたちを受け入れてとりわけ高く評価してくれたのがマカオだったからです。いまでは日本での公演以外にも世界各地で上演する多くの機会に恵まれています。わたしたちのためにこの扉を開いてくれたのが、ほかならぬマカオの友人たちであり、わたしたちのパートナーのスズキさんです。
蘇蘇: 今後の演劇活動プランをお聞かせいただけますか。
Theatre Moments: 今後の上演作品もまずはスズキさんと相談してからですね。まだお知らせできないです。スズキさんも交えて決めていきます。だいじなのは今後の方向性ですが、スズキさんの協力は欠かせない。彼女はわたしたちの非常に重要なパートナーです。わたしたちがいま考えているのは「日本で新作をつくり、それを世界各地に持っていって上演する」こと。(だからこそ、日本で初演した作品に中国語と英語の字幕をつける。これは日本国内の劇団としては極めて珍しいが)わたしたちが海外に打って出るというこの方針で進む上で、スズキさんの協力は非常に重要です。当劇団は来年の秋にはメアリー・シェリー原作の「フランケンシュタイン」をプロデュースするつもりです。マカオでも上演できればと思っています。
* スズキ程嘉敏は、マレーシアの有名プロダクションONZ Productionの幹部のひとり。さまざまな舞台芸術の交流の推進に尽力し、今回はマカオのプロ劇団「戯劇農荘」の招聘によりマカオ国際青年演劇フェスティバルの演目選定を担当した。いっしょにいると楽しくユーモアたっぷりで、舞台上のまじめさが一変する。今後の公演活動が楽しみだ。
(翻訳 泉ユキヲ)
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