THEATRE MOMENTS BLOG

「#マクベス」マカオ公演の劇評その1

「#マクベス」のマカオ公演の劇評。
中国語の翻訳が上がりました。(泉さん、翻訳ありがとうございましたー!)
MOMENTSの過去のマカオ公演をほとんど見ている現地文化人ルチアーノさんの劇評です。
マカオでのMOMENTSの活動も踏まえ、書いてくれている。
とっても深い感想。
有難いので、シェアしますねー。
(ちなみにマクベスは広東語で「馬克白」です。)

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Luciano Ho
日本発 Theatre Moments による「マクベス」

昨晩、幸いにも佐川大輔さん率いるTheatre Momentsマカオ再訪公演を観ることができた。今回の演目はシェークスピアの「マクベス」である。
Theatre Momentsがマカオに来るのは初めてではない。マカオの親しき友と言ってよい。わたしが覚えているだけでも、ここ数年のマカオでの演目は「パニック」(安部公房作、のべ2回。1度目はGodot ArtAssociationと共催で、マカオの役者も参加。2度目はマレーシアのチーム)、「雪」(Godot ArtAssociationと共催、ここでも多くのマカオの役者だけで行った)、「生の葬礼」(陳飛歴の台本だが、日本人の役者により聖パウロ天主堂跡で上演され、場が内包するコンテクストがまたとない神聖な空間を醸しだした)など。
Theatre Momentsは、このところマカオとの関わりを深く広く結んだ日本のグループ。今回、国際青年演劇祭(国際青年戯劇節、Festival Juvenil Internacional de Teatro)に、初めて西洋の古典作品をもってきた。
これまで同様、演出家佐川大輔は非凡な采配を見せ、8名の役者はスポーツ選手のように動きまわる。ひとつの機械の部品群のように無駄のない一糸乱れぬ運びで、場面転換も一瞬でやってのける。この巧みなしつらえに魅了された。
演出の佐川は毎回、身の回りの品物(あるいは単にモノと呼ぶべきだろうか)を小道具に使う。「パニック」はロール式のトイレットペーパー、「雪」ではスケッチブック、今回の「マクベス」ではビニール袋だ。モノが何なのかにとらわれることなく、その場に何げなくあるものを使って、最大の効果を引き出す。わたしがマカオで観たなかでも、これぞ佐川演出ならではの真骨頂といえる。
Theatre Momentsのマカオでの公演歴をみると、台本の内容は日本文化に関連したものが多く、「パニック」「雪」などはすべて日本文化・日本作品をベースにしつつ再構成したものだ。マカオの観客について言えば、日本人が日本作品を解釈しなおし、自ら経てきた文化・価値観と改めて対話をするようすを観るのに優るものがあるだろうか。「パニック」「雪」は、演出家佐川自身が作品を通じて社会価値を判断しなおしているのが見てとれる。このように自らの文化を見つめ直すことは、本国の外に出て公演を行うにおいて、大いに価値がある。香港・マカオなどの都市では、日本の文化輸出を目(ま)のあたりにするのは珍しことではなく、漫画や映画から文学に至るまで、生活の隅々まで満ちあふれている。マカオの観客として、演出家佐川が自らの文化とあらためて対話しているようすを観るとき、その語り口には自然と引き込まれるし、ごく親しいものとして観ることができる(もしこれがウクライナの民間伝説だったなら、その世界に入り込むのも一仕事だったろう)。
2017年に聖パウロ天主堂跡で演じられた「生の葬礼」は、Theatre Momentsがマカオとの結びつきを最も深めた公演だった。わたしも劇評を書かせてもらった。今回の出し物は日本でもマカオでもない「マクベス」。2019年8月、青年演劇祭の会場となった旧マカオ裁判所で、不思議な感覚に打たれた。奇をてらったわけでもなく、淡々と佐川演出の目論見のままに、テレビ番組「ミリオネア」の流儀で「マクベス」の設定が語られる。この古典作品の理解にはちょっとした要領が必要なようだ。ほかの「マクベス」を観たことがあるなら、登場人物どうしの関係を知るのは容易かもしれない。しかし、「マクベス」が初見であれば、あの晩餐会や権謀術数や預言の意味合いを探らないとわからない。このような古典作品を観た経験のない現代人は、1時間ていどの舞台でシェークスピアの世界に入り込むにはそれなりの要領が要る。演出家佐川の単純化の手法が少なからず助けとなった。
わたしの観点で見比べると、「生の葬礼」は演出家佐川とTheatre Momentsがマカオと日本と歴史の間を結び直し、さらなる歩みを進めたもの。いっぽう今回の「マクベス」は、マカオの観客とTheatre Momentsが「マクベス」を共通のベースとして対話した。演出家佐川はわたしの期待に違(たが)わず、何世紀も前のシェークスピア劇から最後には現代の課題に及んでいった。ネット上の流言や外国人労働者の問題など、古来のシェークスピア劇に新しい語り口が加わった(外国人労働者問題は劇中で一言触れられただけだが、わたしをとらえた。マカオはアジアで外国人労働者の比率がもっとも高い都市に違いないし、日本は日本でおもに人口高齢化対策として外国人労働者への開放を進めている。日本の産業はマカオのように観光に特化してはおらず、労働集約型の農業などもある)。
わたしが思うに、アジアの種々異なる社会環境にあって、これこそ最も時宜にかない最も必要とされる対話であり、歴史の蓄積や社会問題、各国の貧富の差などがもたらす未来のあるべき姿まで含んでおり、これらの問題こそ演劇を媒体として表現するのに最も適したものである。
マカオは北東アジアと東南アジアの中間に位置し、外国人労働者がもっとも多い都市だ。日本のNHKテレビが台湾で取材して、外国人労働者が仕事をしながら直面する、妊娠などさまざまな無視するわけにはいかない人権状況を論じたとき、マカオの小城実験劇団はさっそく、東南アジアからマカオに来て働く労働者のことを取り上げた。ことばの問題など、客観的に意思疎通がうまくいかないところもあるかもしれない。とはいえ、東アジアが直面する問題は大なり小なり似通っており、互いに論じ合うことが可能だ。
現状では文化レベルの異なるアジア諸国。芸術にたずさわるグループどうしが交流すれば、それぞれの社会がかかえる問題のレベルが異なっているからこそ、交流や議論も一層深まる。作品を通じ、「マクベス」の後半にそういう期待を感じた。芸術家たちは、マカオの、中国の、東アジアの、アジア全般の問題について論じていけるだろう。自己認識や展望は国によって多種多様であろうが、芸術を通じて交流しながら論じていけば、得られるものも多いと思われる。

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ルチアーノさん、有難い劇評、ありがとう。
僕らが意図したことが伝わっている。
本当にうれしい。
作品を通して対話する。
国際交流できたと胸をなでおろす。

「劇評その2」は後日ーーー。

 

 

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THEATRE MOMENTS演出家 調布市せんがわ劇場演劇チーフディレクター 日本演出者協会国際部部長 好きなことは食べログと温泉と旅行サイトを眺めて、現実逃避すること
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コメント

  1. Misaki
    • Misaki
    • 2019年 9月 30日

    うお〜
    劇評や劇評や!

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